読みもの インドの暮らしと占星術
占星術を信じる人は44%。
それでも83%が、大事な日を吉日で決めている
大安の日に結婚式を挙げ、仏滅は避ける。六曜を信じているかと聞かれたら「信じてはいない」と答える人でも、式場の予約表を見て日を選んでいる。
インドでは、これがもっと大きな規模で起きています。占星術を信じる人は、半分に届きません。それでも、大事な日取りを吉日・吉時で決める人は、8割を超えています。
この記事は、インドの人が占星術をどう使っているかの記事です。「信じる」と「使う」が別のことだと分かる数字から始めます。
12つの数字
アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターは、2019年末から2020年初めにかけて、インドの成人約3万人に対面で調査をしました(2021年6月公表)。その中に、占星術についての質問があります。
占星術(惑星や星の位置が人の人生の出来事に影響するという考え)を信じると答えた人。
ヒンドゥー教徒では49%。
大事な日取りを、吉日や吉時で決めると答えた人。
信じる人は半分に届かないのに、吉日・吉時で日取りを決める人は8割を超える。私はこの2つの数字を、信仰というより暮らしの暦として使う面が大きい、と読みます。ただし2つは別の質問なので、同じ人の中でどう重なっているかは、この数字からは分かりません。
2六曜の、時刻版
日本の六曜は、日にちを単位に吉凶を分けます。インドの吉日・吉時(ムフールタ)は、もっと細かく、時刻まで指定されます。「この日の何時何分から何時何分まで」が良い時間帯、という具合です。
結婚式、家の引っ越し、新しい店の開業、大きな買い物。こうした場面で、暦(パンチャーンガ)を見て日と時刻を決める習慣がある、と説明されます。日本で、家を建てる日や納車の日に大安を選ぶ感覚に近いものです。
3株式市場が、年に1回、吉時に約1時間だけ特別取引をする
いちばん分かりやすい例は、株式市場です。
インドには、ボンベイ証券取引所(BSE)とインド国立証券取引所(NSE)があります。両方とも、毎年ディーワーリー(光の祭り)の日に、吉時に合わせて約1時間だけ、特別な取引を行います。ムフラト・トレーディングと呼ばれ、BSEは1957年、NSEは1992年から続いているとされます。
由来は、商人の習慣です。ディーワーリーは、商人にとって新しい年度の始まりの日で、帳簿を拝む儀式をしてから、新しい取引を始めていました。それが取引所の行事になりました。国営放送も、毎年ニュースにしています。
ここで書いているのは、インドの人がこうしている、という社会の記述です。占星術を投資の判断に使うことを勧めているわけではありません。
4結婚は、36点満点
インドでは、見合い結婚の前に、2人の出生図を照らし合わせる習慣があります(クンダリー・ミラン)。代表的な方法がアシュタクータで、8つの基準ごとに点をつけ、合計は36点満点です。
| 基準 | 満点 |
|---|---|
| ヴァルナ | 1点 |
| ヴァシュヤ | 2点 |
| ターラー | 3点 |
| ヨーニ | 4点 |
| グラハ・マイトリー | 5点 |
| ガナ | 6点 |
| バクータ | 7点 |
| ナーディー | 8点 |
| 合計 | 36点 |
1点から8点まで、1点ずつ増えていって、合計が36。実務では、18点以上を目安にする、という話がよく流通しています。基準の多くは、生まれたときの月の宿から計算できます。
この配点や目安は、商用の解説サイトなどによる紹介です。古典のどの章に書かれているかは、私はまだ確認できていません。
もうひとつ、書いておくべきことがあります。出生図の特定の配置を「結婚に不利」とする慣習(マンガル・ドーシャ)によって、縁談で不利になる人がいることは、インド国内でも問題として批判されています。このような判定が、人を選別する道具として働く面があることは、知っておいてよいと思います。
5名前は、生まれたときの月が決める
子どもの命名のとき、生まれたときの月の宿(ナクシャトラ)とその4分の1(パーダ)ごとに、名前の最初の音が割り当てられている、という慣習があります。27の宿に4分の1が4つで、108の区画に、それぞれ最初の音が割り当てられます。
すべての家庭が従うわけではなく、割り当ての表には、流派や地域による違いもあります。それでも、名前の最初の音と、生まれた瞬間の月の位置が結びついている、というのは、日本の読者には新鮮な話だと思います。
6大学の学位と、最高裁
教育や法廷にも、占星術は出てきます。
- 2001年、大学助成委員会が、大学に占星科学の課程を導入する決定をしました。2021年には、インディラ・ガンディー国立放送大学が、ジョーティシュの修士課程を開設しています。
- 2004年、この導入に反対した科学者たちの訴えを、最高裁は棄却しました。ただ、「最高裁が占星術を科学と認めた」は言い過ぎです。正確には、大学で教えることを差し止める理由はない、と判断した、ということです。判決の理屈には批判もあります。
インドは、占星術が学位課程になっている国であり、それが科学的かどうかが最高裁まで争われた国でもあります。
7日本の私たちと、同じところ
ここまで見てきたのは、「信じる」より前に「使う」がある、ということでした。日本の私たちも、六曜を信じているわけではないのに、お祝いごとの日は大安を選びがちです。
ここから先は、私の読みです。多くの人が日取りに吉日を使う理由は、それが当たるからというより、その社会の全員が共有している時刻表だからではないでしょうか。全員が同じ日を選べば、式場も、親族の予定も、揃えやすくなります。
ですので、83%という数字は、占星術が当たることの証拠にはなりません。「みんなが使っている」ことと、「当たっている」ことは、別のことです。当たるのかどうかについては、別の記事に書きました。
8今日できる一つ
あなたの暮らしの中で、「信じてはいないけれど、使っている」暦を、1つ書き出してみてください。大安や仏滅、お盆、初詣、年末年始のしきたり。何でも構いません。
そのあとに、それを使う理由が「みんなが使っているから」かどうかを、1行だけ書き足してください。