読みもの ラーフとケートゥ
ラーフとケートゥは、実在しない星です。
それでも日食と月食は、その近くで起きます
占いの本を開いて、ラーフとケートゥのところで手が止まったことはないでしょうか。
惑星の仲間に、見えない星が2つ混ざっている。「影の惑星」とも「不吉」とも書いてある。
この記事は、怖がらせるためのものではありません。順番に、物語、空の事実、占星術での扱いを書きます。最初の2つは確かめられます。3つ目は解釈です。
そしてこの2つの星は、物体としては存在しません。それでも日食と月食は、いつもその近くで起きます。
1首だけになった魔族の話
神々と魔族は、不死の霊薬アムリタを手に入れるために、大海をかき混ぜました。霊薬が現れると、神ヴィシュヌは美女に姿を変えて、神々にだけ配ろうとします。
魔族のスヴァルバーヌは、神々の姿に化けて列に紛れ込み、一口飲んでしまいます。気づいた太陽と月が告げ口をして、ヴィシュヌの円盤が魔族の首を切り落としました。けれど霊薬は、すでに喉を通っていました。
首はラーフ、胴体はケートゥとなって、不死のまま残ります。魔族は、告げ口をした太陽と月を恨んで追いかけ、ときどき飲み込みます。ただ、首しかないので、飲み込んでも喉から出てきてしまう。これが日食と月食だと、伝えられています。
これは伝承で、版によって細部が違います。マハーバーラタやプラーナ文献などに見え、祖型はヴェーダ期の「太陽を闇で覆う魔物」の話とされます。
2空の事実:月の道は、太陽の道と2か所で交わる
地球から見ると、太陽は1年かけて、星空の中を1周します。この太陽の通り道を、黄道と呼びます。月も同じ空を回りますが、月の通り道は、黄道に対して約5度傾いています。
左右はつながっています(一周した形を、横に広げた図です)。実際の傾きは約5度で、図は分かりやすいように大きく描いています。
2つの道は傾いているので、重なる場所は2点だけです。月がこの点を南から北へ横切る場所がラーフ、北から南へ横切る場所がケートゥです。数学的な点であって、望遠鏡で見つかる星ではありません。
そして、日食も月食も、この2点の近くでしか起きません。新月のとき、月がこの点の近くにいると、太陽を隠して日食になります。満月のとき、この点の近くにいると、地球の影に入って月食になります。月が点から離れた場所にいるときは、新月でも満月でも、太陽・地球・月が一直線に並ばないので、食は起きません。
3神話と天文が、重なるところ
この魔族の話は、空の事実と、いくつか重なっています。
- いつも正反対にいる。首と胴体は、円の反対側にあります。ラーフとケートゥは、いつも180度離れています。
- 逆向きに進む。2つの点は、ほかの惑星とは逆の向きに、約18.6年かけて黄道を1周します。
物語の側から重ねて読むこともできます。魔族が太陽と月を追いかけて飲み込むのは、食が太陽と月がこの2点の近くに来たときだけ起きること。飲み込んでも喉から出てくるのは、食が終わること。これは天文の性質が物語に対応している、というより、私が物語を天文の言葉で言い直したものです。
この物語が先にあって、人々が食の起きる場所を魔族の名前で呼んだのか。観測が先にあって、後から物語が付いたのか。そこは分かっていません。ただ、この名前が、日食と月食が起きる場所を指しているのは事実です。
4占星術では、どう扱われるか
インド占星術では、太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星にラーフとケートゥを加えた9つを、出生図の中で読みます。ダシャー(人生を惑星ごとの期間に区切る考え方)では、ラーフの期間は18年、ケートゥは7年と決められています。
現代の解説書の一部では、ラーフは強い欲求や新しい経験への渇き、ケートゥは手放しや内省と説明されることが多いようです。ただ、これは解釈で、古典の該当箇所は、版と章までは確認できていません。ここでは紹介にとどめます。
ひとつ、はっきり言えることがあります。物語から、吉凶は導けません。首だけの魔族の話は、この名前がなぜ付いたかを説明する伝承です。当たるかどうかの根拠にはなりません。「ラーフの期間は不運」のような言い方は、流派の解釈で、確かめられる事実ではないので、私は断定しません。
5同じ点でも、計算方法で日付が10日ずれる
ラーフ・ケートゥは、計算のしかたが2通りあります。実際の位置を追う真のノードと、平均的な動きで置く平均ノードです。どちらも「ラーフ」と呼ばれます。
2026年、ラーフが水瓶座から山羊座へ移る日は、日本時間で、真のノードなら11月25日ごろ、平均ノードなら12月6日ごろです。同じ移動なのに、約10日違います(ラヒリ方式・Swiss Ephemeris 2.10.03で計算)。
占い師が「ラーフが山羊座に入る日」を言うとき、どちらの計算なのかが書かれていなければ、確かめようがありません。日付の出どころを書いているかどうかは、その占いを信用するかの、ひとつの目安になります。アヤナーンシャ(星座の区切りの数値)の違いでも、日付は変わります。
6日本にも、いる
日本の「九曜」は、七曜にラーフ(羅睺)とケートゥ(計都)を加えた9つの星です。この9つを円で表した紋が九曜紋で、平安時代から牛車や衣服に付けられ、やがて家紋として広まりました。江戸時代には、大名や幕臣の100以上の家が使ったといわれます。肥後の細川家の九曜紋は、織田信長から与えられたと伝えられています。
寺の星まつりで割り当てられる「当年星」にも、羅睺星と計都星が入っています。ただし当年星は、数え年で機械的に回るもので、インド占星術の出生図とは関係がありません。
7今日できる一つ
次に日食のニュースを見たら、その前後の暦を1つだけ確かめてみてください。
日食は新月のときに起きます。けれど、新月は年に12回か13回あるのに、日食は多くても年に数回です。新月のたびに日食にならないのは、月が2つの点から離れているからです。国立天文台の暦で、新月の日付と日食の日付を見比べると、この差が見えます。