読みもの インド占星術とは

インド占星術とは。
同じ空を、別の物差しで測る占星術

インド占星術と西洋占星術は、名前が似ているだけではありません。同じ空を、別の物差しで測っています。

たとえば、太陽星座を恒星の基準で数え直すと、4月14日ごろまでに生まれた「おひつじ座」の人は「うお座」になります。そんなことが、実際に起きます。どちらかが間違えているのではなく、物差しが違うからです。

この記事は、インド占星術(ジョーティシュ)の入口です。仕組みを3つ、歴史を少し、日本とのつながりを少し。そして最後に、当たるのかという問いについて、私の立場を書きます。

1一言でいうと

生まれた日時と場所から、その瞬間の惑星と月の位置を計算して、出生図をつくる。インドでは月がどの「宿」にいたかを重く見て、そこから性格の傾向や人生の時期を読む。それがインド占星術です。サンスクリット語では「ジョーティシャ」、日本では「ジョーティシュ」とも書きます。

西洋占星術との違いは、大きく3つあります。

  • 月を重く見る。西洋は誕生日の太陽星座が入口になりやすく、インドは月の位置が中心になります。
  • 星座の基準が違う。次の章で書きます。
  • 人生を、惑星ごとの期間に区切る。「ダシャー」と呼ばれます。

2同じ空を、2つの物差しで測っている

地球は、コマのように少しずつ軸の向きが変わっています(歳差)。そのため、春分の日に太陽がいる位置は、恒星を背景にすると、毎年ごくわずかずつ動いていきます。

西洋占星術の多くは、春分点を起点にして、そこから30度ずつ12の星座に区切ります(トロピカル方式)。インド占星術は、恒星を基準にして区切ります(サイデリアル方式)。2つの方式の差は、アヤナーンシャと呼ばれる角度で、インドで広く使われているラヒリ方式では、2026年9月時点でおよそ24.2度です。

約24度

西洋とインドの星座の区切りのずれ(2026年9月・ラヒリ方式)。
太陽が同じ星座に入る日は、およそ3週間半ずれます。

たとえば4月1日生まれは、西洋ではおひつじ座です。インドの方式では、太陽はまだ前のうお座にいます。おひつじ座に入るのは、2026年なら日本時間の4月14日ごろです。西洋のおひつじ座(3月21日ごろから)の最初の3週間半は、インドの方式ではうお座にあたる、という言い方もできます。

どちらが正しいか、という問いではありません。物差しが違うので、数字が違う。それだけです。ただし、この角度をどの数値にするかにも流派があり、数値が変わると日付や星座の区切りも変わります。だから私は、鑑定書に使った数値を全部書いています(計算と方針)。

3月が泊まる27の宿

月は約27.3日で、星空を一周します。この道を27に分けたものがナクシャトラ(月の宿)です。月は1日に約13度進むので、だいたい毎晩1つずつ宿を移っていきます。

この27という数字には、物語があります。月の神は、創造神ダクシャの27人の娘を妻にしました。ところが月は、妻の1人のローヒニーばかりを愛して、ほかの妻たちをかえりみません。怒ったダクシャは月に呪いをかけ、月は痩せ細っていきます。神々のとりなしで呪いは和らげられ、月は半月かけて欠け、半月かけて満ちるようになった。月の満ち欠けの由来として、そう語り継がれています。(伝承です。妻を1人とする版と、複数とする版があります)

27人の妻の家を1晩ずつ回る夫、というのは、月の動きそのものです。日本の宿曜(後述)で使う「二十七宿」の「宿」も、同じ意味です。

49つの惑星(ナヴァグラハ)

インド占星術の古典的な読み方では、使う天体は9つです。太陽・月・火星・水星・木星・金星・土星に、ラーフとケートゥを加えます。

最初の7つは、日本の曜日と同じ並びです。日曜(太陽)、月曜(月)、火曜(火星)、水曜(水星)、木曜(木星)、金曜(金星)、土曜(土星)。偶然ではなく、同じ源流から来ています。この話は、あとの「日本とのつながり」で書きます。

ラーフとケートゥは、惑星ではありません。物体としては存在しない、空の上の2つの点です。それなのに、日食と月食はいつも、その近くで起きます。この話は、別の記事に書きました。ラーフとケートゥは、実在しない星です

5人生を「章」に区切る:ダシャー

インド占星術には、人生を惑星ごとの期間に区切る考え方があります。代表的なヴィムショッタリ・ダシャーでは、9つの惑星が7年、20年、6年、10年、7年、18年、16年、19年、17年という長さの期間をもち、合計は120年です。

どの惑星の期間から始まるかは、生まれたときの月の宿で決まります。ですから、生まれた日時が分かれば、今がどの期間の何年目かは、日付で出ます。

ただし、期間の日付は計算できても、その期間に何が起きるかは、計算では出ません。読み方は流派や読み手によって違い、ここが解釈の部分です。転職の迷いに当てはめて書いた記事があります。転職するか迷って動けないとき

6宿曜占星術とは、親戚のような関係

日本には宿曜(すくよう)占星術があります。宿曜は、インド占星術を祖先にもち、中国で陰陽五行などと混ざって日本に来た、親戚のような存在です。どちらも27の月の宿を使います。ただし、自分の宿の決め方が違います。

宿曜(現代の日本)インド占星術
宿の決め方旧暦の生まれた月日から、表で決める生まれた瞬間の月の位置を、天文計算で決める
同じ誕生日なら旧暦の月日が同じなら、同じ宿になる同じ誕生日でも、時刻によって変わることがある(月は約2時間で1度動く)

旧暦の日付による割り当ては、月の実際の位置の近似です。そのため、実際の位置で決めるナクシャトラと、一致しない日があります。どのくらいの割合でずれるのか、私はまだ測っていません。

宿曜が日本に来たのは、空海が唐から持ち帰った『宿曜経』を通してです。空海が朝廷に持ち帰りの目録を出したのは、806年でした。

7「ヴェーダ占星術」という呼び名について

インド占星術は、「ヴェーダ占星術」とも呼ばれます。検索してもこの名前が出てきます。

ただ、この呼び名は20世紀に英語圏で広まったものです。ヴェーダの文献に、出生図をつくって個人の運命を読む技術は出てきません。ヴェーダの時代に古いのは暦(祭りの日取りを決める計算)のほうです。

ですので私は、「ヴェーダに書かれた占星術」とは書きません。古さで信じさせようとする説明のほうを、疑ってかまわないと思います。

8歴史:暦が先で、占いは後から

インドの星の知識は、3000年以上前の暦にさかのぼります。祭りの日を決めるために、月の通り道を27か28に分けた記録があります。ここまでは暦の話で、占いではありません。

出生図を読む占いが形になったのは、それよりずっと後の、紀元後の数世紀です。ギリシャ世界の占星術の技術が入り、インド在来の月の宿の知識と混ざりました。その痕跡が、言葉に残っています。インド占星術で出生図を意味する「ホーラー」は、英語のhour(時間)と同じ、ギリシャ語のhōra(時)に由来します。

6世紀には、ヴァラーハミヒラという学者が、天文学と占星術の書を残しました。この知識は、その前後から中国、日本、イスラム世界へも出ていき、また戻ってきます。「5000年の歴史」という言い方はよく見ますが、暦と出生占星術を混ぜた数字なので、私は使いません。

ギリシャ由来なのか、インド独自なのか。どちらも言い過ぎです。月の宿という在来の土台に、ギリシャの出生図の技術が接ぎ木された、混血の技術と言うのが妥当だと思います。

9日本とのつながり

インド占星術は、遠い国の話ではありません。日本の暮らしの中にも入っています。

  • 曜日:日月火水木金土の七曜は、空海が持ち帰った『宿曜経』に載っていました。平安時代には暦に曜日が書き込まれ、吉凶を占う目安として使われました。現存する最古の記録は、藤原道長の『御堂関白記』(998年から)です。
  • 源氏物語:桐壺の巻で、桐壺帝は光源氏を皇族から外す決断をします。高麗人の人相見の見立てに続いて、「宿曜の賢き道の人」にも占わせ、同じ答えだったので、帝は決心を固めます。
  • 九曜紋:七曜にラーフとケートゥ(漢字で羅睺と計都)を加えた9つの星を、円で表した家紋です。細川家の九曜紋が知られています。

10当たるのか、という問いについて

ここまで読んで、いちばん気になるのは、当たるのかどうかだと思います。

先に答えを書きます。当たると言える根拠は、調べた研究でも確認されていません。インドの科学者が、インド占星術を対象にして調べた研究があります。一方で、読んで「役に立った」「整理できた」と感じる人がいることも、別の事実として実在します。私はこの2つを、同じ文で語らないと決めています。

詳しくは、インド占星術は当たるのかに書きました。